被災地:福井市片町
1948(昭和23)年6月28日午後4時13分。ちょうど自宅前にいた。「遠くから『ゴーッ』という轟音(ごうおん)が迫ってきた。いきなり体が地面にたたきつけられた」。
道路は波打ち、亀裂が走る。家屋は次々と崩れ落ちる。何より恐ろしかったのは、片町一体をのみ込んだ大火災。「この世の終わりが来たとしか思えなかった」。
自宅にほど近い映画館「国際劇場」では、大勢の観客が人気映画「愛染かつら」の再上映を楽しんでいた。「助けてくれー」。崩れた劇場の奥から聞こえてくる無数の悲鳴。外に並んでいた自転車の列に屋根が覆いかぶさり、入り口をふさいだ。そのすき間には、絶望に引きつった顔、必死に脱出しようともがく顔がいくつもあった。
地震発生直後、揺れによる摩擦で近くのマッチ倉庫から出火。風にあおられた猛火は民家を焼き、1時間後にはつぶれた劇場へ達した。建物の下になった男性から助けを求められたが「自分と家族を守ろうとそれどころではなかった」。自宅の下敷きになった母親の救出に懸命だった。
落ちてきたけたに腰が挟まれて身動きが取れなくなった母親を、ジャッキでけたを持ち上げて、やっとの思いで引きずり出した。家はまもなく灰になった。
近くの空き地で夜を明かした翌日、がれきの山となった国際劇場前を通ると、手足がなく胴体だけになった黒こげの無惨な死体が点々と転がっていた。